J.フロント リテイリング様のAmazon WorkSpaces導入の事例
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J.フロント リテイリングについて
- 大石:
- まずは、J.フロント リテイリングについてご紹介いただけますか。
- 中山氏:
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J.フロント リテイリングは、2007年に百貨店の大丸と松坂屋が経営統合した際に、 共同持株会社として設立された会社です。2012年には、パルコもグループに加わり、営業拠点が全国の主要都市にバランス良く配置されていることが、当社グループの大きな強みとなっています。他にも、不動産事業、クレジット金融事業、建装事業、人材サービス事業などを展開し、今年、新たに幼児保育事業にも参入しました。
- 大石:
- GINZA SIXも事業の1つですよね。
- 中山氏:
- GINZA SIXは、旧松坂屋銀座店の跡地を含む2街区一体開発によって生まれたもので 「百貨店をやらない」と宣言し、「不動産賃貸型」モデルに転換しました。
- 大石:
- 海外からのインバウンド需要にも、GINZA SIXは上手く対応しているイメージがありますが。
- 中山氏:
- 「日本初のラグジュアリーモール」として、ワールドクラスクオリティの品揃え、環境演出にこだわった結果、インバウンドのお客様にも評価していただいていると思います。
会社としての戦略の方向性
- 大石:
- そのようなビジネス環境のなかでのJ.フロント リテイリングの企業戦略を教えてください。
- 中山氏:
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百貨店ビジネスは今、富裕層やインバウンド需要に支えられています。とはいえ、業績は必ずしも上向きではない。さらにお客様の高齢化の問題もあります。百貨店のビジネスが10年、20年とこのまま続くかといえばそうではないでしょう。10年後、20年後にもグループが成長を続けるため、ビジネスポートフォリオを見直しているところです。
百貨店、パルコに続く第3の柱になるような、新しい形のリテイルビジネスが求められています。弊社の社長の考えでもありますが、そういった新しいビジネスはIT起点で生まれてくる。そのために私が率いているグループ・デジタルの組織から、ITドリブンで新しいビジネスを生み出そうとしています。
- 大石:
- 百貨店というリアルビジネスをやられているところが、ITで自分たちを変革する。そういう思いをお持ちなのですね。
- 中山氏:
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世間でいうデジタル変革を百貨店にかけ合わせたらどうなるのか。もともと百貨店は家族で訪れて朝から晩まで楽しむことができ、家族の誰もが欲しいものを手に入れられる夢のような場所でした。だからこそ百貨店と呼ばれていたのです。ところが今はそうではない。人々の嗜好が多様化し、全ての人が欲しいものは1ヶ所では手に入りません。ECも含め、さまざまなところを周りながら買い物をしています。
それをもう一度、デジタルの世界を使って変える。インターネットを使い、よりお客様と接点を持ち、その接点をもとにお客様の「欲しい」を理解します。そこからお客様に提案できるような、新しいビジネスモデルが実現できないか、それを追求しています。
戦略に基づいたICT戦略
- 大石:
- そういった大きな戦略の中で、中山さんに求められているCIOのミッションはどのようなものでしょうか。
- 中山氏:
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社内では「攻めのIT」と「守りのIT」と呼んでいますが、「攻めのIT」はデジタル変革でデジタルをどのように社内に持ち込むかがポイントになります。売り上げを上げる施策に、ITとしてどのように貢献できるのか。もう1つ大事なのが「守りのIT」で、こちらはきちんとITシステムを動かしビジネスが止まらないようにすること、またセキュリティの担保が核となります。セキュリティの面で何らか問題が発生すれば、1日にして会社の信用が大きく失墜してしまいますから。
私は「攻めのIT」をやろうと2年前にJ.フロント リテイリングに転職しました。ところが、「攻めのIT」をやる前に「守りのIT」であるセキュリティ対策などが十分ではありませんでした。たとえば、利用していたPCのOSのバージョンが古く、最新のセキュリティパッチが当たっていないものもあったのです。またサーバーサイドを見ると、国産SIベンダーに開発されたシステムが、オンプレミスで何100台も動いている状況でした。これも今としては時代遅れで、クラウドシフトを早め、よりセキュアでスピーディーにシステムを作れるようにしていきたい。
つまりクライアントサイドのセキュリティとサーバーサイドのクラウド化、この2つを大きな柱として「攻めのIT」と「守りのIT」をバランス良く保ちながら新たな施策を打っていく。それが私の責務となります。
- 大石:
- 大変興味深いお話です。J.フロント リテイリングでのクラウド化は、「守りのIT」から始まったことになりますか。
- 中山氏:
- 災害に耐えうる構成をオンプレミスで設計するのは大変です。それ故に、かつては1つ2つの限られたシステムでしか災害対策はとられていなかったのです。これを一気に対応させようとすれば、クラウドで用意されているものを使うことになるでしょう。たとえばAWSならアベイラビリティーゾーンを利用する、あるいは複数拠点を使うなどの方法があります。さらにAWSの自動化された可用性の仕組みなどを使うことで、自分たちで1から設計しなくてもデータのバックアップや広域での災害対策を実現できます。それらがあったので、クラウドシフトが「守りのIT」の強化につながると考えました。
AWSを選択した理由
- 大石:
- クラウドを選定する際に、AWS以外の選択肢はあったのでしょうか。
- 中山氏:
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特にありませんでした。普通なら経営層に説明する際に、AWSとAzure、GCPという3つを比較することでしょう。私の場合は前職時代からAWSに携わっていたこともあり、AWSがベストと判断し、経営層にも承認されました。理由としては、AWSが他のクラウドに比べ機能が優れていたからではありません。機能はいたちごっこで追いついたり追いつかれたり。圧倒的な違いは、運用の実績とAWSを扱えるSIer層の厚さです。クラウドの周辺サービスにおいては、AWSと他では圧倒的な差があるのです。
今回はAWSの環境について、サーバーワークスにさまざまなことをお願いしています。仮にサーバーワークスがAWSの運用をできなくなったとしても、他にもやってくれる会社はあるでしょう。そこには大きな安心感があります。またAWS上で開発できる会社もたくさんあり、このように選択の余地が広いのは、安定した環境を保持するには重要です。
DX実現のためにクラウドをどう活用するか
- 大石:
- 調査会社のガートナーも、中山さんと同じことをいっていますね。機能はお互いに似たり寄ったりですが、パートナー層の厚さがマーケットでのシェアの差として表れていると。ところで、経営面でデジタル変革を進めようとした際に、クラウドやITをどのように使っていくのか。そのイメージを教えてください。
- 中山氏:
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まずは発想を変えなければならないと思っています。百貨店もそうですが、オフラインで店舗を持っている企業のデジタル化の考え方は、オフラインの店舗にデジタル化要素を加えると何か良いことがある、あるいは収益が上がると考えがちです。このようにオフラインの中にデジタルを入れる進め方だと、オフラインの文化や仕事の進め方にデジタルを合わせることにもなります。
たとえばお客様へのリーチの力やお客様とのタッチポイントでの接触頻度などは、店舗に来ていただくよりも圧倒的にオンラインのほうが高い。オンラインなら毎日チャットをしたり、メールを送ったりできます。さらにデジタルなら、さまざまなサイトを見た後に訪れてくれたなどの行動履歴を掴みやすい。これをリアルで行おうとすれば、売り場にくるまでに百貨店のどの売り場を周ってきたかを把握するため、ビーコンやセンサーを設置し動線分析をすることになります。百貨店の外に出てしまえば、携帯電話の位置情報サービスを使うことになるでしょう。それらには、とんでもなくコストがかかります。デジタルなら顧客の行動把握はオフラインよりも遙かに進んでいます。今やそういったことを起点にして考えていかないと、サービスレベルは落ちてしまうのです。
そこで私がまず考えたのは、デジタルを中心にすることです。その上で百貨店やパルコというリアルビジネスを持っている強みをどう生かしていくのか。デジタルから見れば、店舗もタッチポイントの1つに過ぎません。とはいえ、それはAmazonや楽天は持っていない。オフラインのタッチポイントを持っていることをどう生かすかをデジタルの中で考え、それでデジタル変革を進めていくのです。
実は私が転職してきた当初、オムニチャネルをやってくれとの話がありました。私はその動きを一切止め、デジタルから見た時に百貨店がどう見えるか、パルコがどう見えるかを考えないと失敗しますよと、経営層に啓蒙活動し意識を変えてもらうところから始めました。
- 大石:
- 百貨店のビジネスなどをやっていると、どうしても店舗の延長線でデジタルビジネスを考えてしまいがちですが、そうではないと。
- 中山氏:
- デジタル変革は、そういったものではありません。ビジネスの本質をデジタルで変えなければならないのです。お客様は買いたい時に買いたいものを買う、商品を受け取りたい時に受け取りたい場所で受け取る。オンラインでやりたいとかオフラインでやりたいとかを意識しては行動しません。あくまでも顧客視点で見た時に、デジタルかノンデジタルかで戦略を分けたり、優先順位を付けたりするよりも、デジタルの考え方を中心にしながらお客様から見てベストチョイスになるような選択肢を提供する。それがビジネスの成功につながると考えています。
- 大石:
- ITに携わっている私たちのような立場だと、どうしてもデジタル変革はITやクラウドを最大限に活用し何かを破壊することだとの考えに陥りがちです。あくまでも顧客視点で捉え、顧客の利便性をどう最適化するか。その時にITやクラウドをどう使っていくのか、それが中山さんが目指す方向性ですね。
- 中山氏:
- J.フロント リテイリングのブランディングがまだきちんと浸透していないなか、この先10年かけお客様にファンになってもらう。J.フロント リテイリングと付き合って良かったな、J.フロント リテイリングは良いものを提供してくれるな、自分の気持ちも良く分かってくれて痒いところに手が届く商品やサービスを提供してくれるな。そう思っていただけるようなマルチリテイラーになろうとしているので、徹底的に顧客サイドに立ってものを見るようにします。お客様にとってどう見えるかを常に意識しながら、サービス設計をしていく必要があるのです。
働き方改革とセキュリティの担保は両立できるか
- 大石:
- ここまでクラウド戦略の要となるお話を伺いました。もう1つ異なる視点で、働き方改革にも力を入れて取り組んでいるとお聞きしています。一方では、セキュリティの確保は譲れないとの話もありました。働き方改革はさまざまな場所で仕事ができるようにする必要があり、セキュリティの確保とは矛盾するかと思います。それについてはどのように両立させているのでしょうか。
- 中山氏:
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利便性を第一にするのか、セキュリティを第一にするのか、これは相反する関係で両立できないといわれます。しかし、私は両立できると思っています。実は両立するのは簡単です。PCを社外に持ち出しカフェで仕事する、自宅でテレワークをする、その際にPCを盗まれたり落としたりしたらどうするのか。究極はそのPCに何も入っていなければ良いのです。それにはいわゆるシンクライアントを徹底することです。
さいわいにして、百貨店は海外の僻地に赴きインターネットがつながらない環境で仕事をする必要はありません。ネットにつながることを前提にできるので、思い切ってシンクライアントにしました。PCが壊れたとか、PCでどんなソフトウェアが動いているかの管理を考えた場合、従来のPCではそれに大きなコストがかかります。シンクライアントではそれらをやらなくて済むのです。
そこで端末にまったくデータが残らない、GoogleのChrome OSを使ったシンクライアントで、全社を統一することにしました。Chrome PCはかなり安いので、壊れたら直すのではなく新しい端末に交換してしまう。それをクラウドにつなげば、10分もあれば自分の環境が戻ってきます。そうすると、リモートメンテナンスもヘルプデスクもいりません。すでにChrome PCを1000台ほど導入し、テレワークの実験を始めています。
- 大石:
- Microsoft ExcelやPower Pointを使っている人からは、Chrome PCへの移行に抵抗はありませんでしたか。
- 中山氏:
- 共同で文書を作る仕事があり、それを行うにはGoogle Documentの共同編集の機能は従来のMicrosoft製品よりも使いやすいです。そういったユーザーが多く、移行は意外にすんなりと受け入れられました。とはいえ、教育はかなり行いました。またMicrosoftのソフトのヘビーユーザーには、Windows 10の環境を使っても良いとの逃げ道も用意してあります。古いWindows環境でしか動かないアプリケーションもいくつかありましたが、それらはAWSのDaaSであるAmazon WorkSpacesを採用し対応しています。
- 大石:
- 1000台規模でAmazon WorkSpacesを使うとなると、苦労もあったのではないでしょうか。
- 中山氏:
- 最初はいくつかトラブルもありましたが、AWSに対応してもらいました。今はほぼ問題はありません。AWSはグローバル企業で対応に時間もかかるかと思っていましたが、意外に早く問題を解決してくれました。
今後の展望について
- 大石:
- 最後に今後の展望について教えてください。
- 中山氏:
- AWSについては、今はLift & Shiftで既存環境をそのまま移行しているものが多い。それをAWSネイティブなサービスに切り替えて行きたいです。具体的にはデータベースをAmazon Auroraに移行したり、PaaSを積極的に利用したりと。ちょうど基幹系システムの切り替えが、2年ほどの間にやってきます。それらの移行ではクラウドネイティブな作り方に変え、なるべくPaaSを使い開発コストは2/3くらいに抑えることも考えています。よりクラウドネイティブにして行くことが、今後やりたいことになります。
- 大石:
- クラウドネイティブに変えて行くと、障害に強くなるなどいくつものメリットがあります。またIT人材の確保の面でも優位性があると思います。今日の中山さんの基幹系システムをクラウドネイティブでサーバーレスでやっていくとのメッセージを見て、それならチャレンジしてみたいという人も増えるのではと思います。
- 中山氏:
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J.フロント リテイリングにもIT子会社があり、国産ベンダーが開発した旧態依然のウォーターフォール型のスタイルでした。言語も古く、それらに対応するオンプレミスの技術に強みがあったのです。これでは正直、ITエンジニアの市場価値はあまり高くありません。
対して今やろうとしているのは、完全にクラウド環境に対応し、クラウドに合わせたシステムを設計でき、運用監視もクラウドでやる。その上で最先端技術を使いながら、ビジネスのデジタル変革にも取り組むのです。リテイル業界はデジタル変革で遅れていると思っていますが、それを一気にデジタル化しビジネスモデルも刷新します。このようにITの最新の力を使いビジネスモデルも変革するのは、技術者にとってもやりがいがあるものでしょう。技術者としての市場価値も高くなり、それがモチベーションにつながるはずです。それにより、自分たちの存在意義も高めて欲しいと思います。
- 大石:
- 他の企業からもAWSを使うことをトップから意思表示してもらうと、人材確保にポジティブに作用すると聞いています。今日の話で、J.フロント リテイリングに転職したいと考える人たちにメッセージをお願いします。
- 中山氏:
- 今考えているビジネスモデルは、日本初のものになるでしょう。リテイルが単にEコマースに変わるとかの次元ではありません。そういった新しいチャレンジを、最新のクラウド技術を使いながらやっていきたい。そういう人は、是非J.フロント リテイリングに入っていただきたい。入ってもらえれば、きっとやりがいのある仕事ができると思います。
- 大石:
- 私たちもJ.フロント リテイリングでの中山さんのチャレンジを、クラウドのインフラ面からサポートしていきたいと思います。本日は、どうもありがとうございました。
対談動画
※ この事例に記述した数字・事実はすべて、事例取材当時に発表されていた事実に基づきます。数字の一部は概数、およその数で記述しています。
選ばれる3つの理由
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Reason 01
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Reason 02
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パートナーとしての技術力 -
Reason 03
いち早くAWS専業に
取り組んだ歴史